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NHK 受信料・受信契約に関する記事一覧

(注意)2011年に放送法が改正されたので、それ以前のNHKに関する記載は現状にそぐわない可能性があります。

[NHK]

ケーブルテレビと受信料に関するNHKの主張の誤り / 2009-03-22 (日)

NHKに対して、ケーブルテレビの場合にNHKの受信料を払わなくていいのかと質問する人がいるようで、NHKの回答がよくいただく質問の中にあります。
ところが、NHKは受信料を払ってほしくて必死なのか、法的に間違っている回答をしています。そこで、本記事ではどこが誤っているかについて記載したいと思います。

まずは、その内容を以下に引用します。

NHK 受信料の窓口 よくいただく質問 より

ケーブルテレビの受信は放送法の規定によらず、有線放送法の規定に従うのでは?

ケーブルテレビを通じてNHKの放送番組を視聴している場合でも、放送法32条が適用され、受信契約を結んでいただかなくてはなりません。
「協会の放送」とはNHKが行う「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」をいいます。(放送法第2条第1号)
一方、同項において、NHKと受信契約を締結する義務を有するのは、「協会の放送を受信できる受信設備を設置した者」とされており、ここでは「直接受信」ではなく、単に「受信」と規定されています。
したがって、「協会の放送を受信できる受信設備」とは、直接または間接(有線テレビ放送施設を介して受信する場合)を問わず、NHKが送信する放送番組を視聴できる受信設備のすべてをいうものです。

NHKは、その公式サイトにおいて単に「受信」とされている場合は「有線テレビ放送施設を介して受信する場合」を含むと主張しています。しかし、これは学者に支持される解釈ではありません。
例えば、1989年初版発行の放送法制の課題(有斐閣:塩野宏著)に収録されている論文を見てみます(塩野宏は放送法制の課題出版当時は東大法学部教授です)。この中には、著作権シリーズ57号(1979年)「再送信の同意権と著作隣接権」という論文が掲載されています。なお、誤記は放送法制の課題に掲載する際に修正したとのことですが、原則として公開されたままとしているとのことですので、この論文の記載は1979年当時の法律を念頭において読み取る必要があります。
ここで、論文の最後の注釈には以下の通りの記載があります。

放送法制の課題(有斐閣:塩野宏著)の210ページより

(21) 放送事業者の有線放送権の及ぶ範囲は、放送を直接受信しての有線放送に限られており、他の有線放送事業者が行う放送の再送信を受信して再送信する有線放送には権利は及ばない。また、放送の再送信に関しては、有線放送事業者には著作権法上何らの権利も認められていない。したがって、この種の間接的な再送信にも放送事業者の有線放送権が及ぶよう法律上の手当をする必要がある。

次に、1979年の著作権法から、放送事業者の権利の節だけを抜粋します。

著作権法(1979年当時のものの抜粋)

第四節 放送事業者の権利

(複製権)
第九十八条 放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。

(再放送権及び有線放送権)
第九十九条 放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、放送を受信して有線放送を行なう者が法令の規定により行なわなければならない有線放送については、適用しない。

(テレビジョン放送の伝達権)
第百条 放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。

ここで、NHKが主張するように「直接受信」ではなく単に「受信」と規定されていれば有線テレビ放送施設を介して受信する場合を含むのであれば、1979年当時の著作権法99条では「放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。」のですから、「放送事業者は他の有線放送事業者が行う放送の再送信を受信して再送信する有線放送にも権利が及ぶ」ことになります。
しかし、塩野宏は上記の引用部分で「放送事業者の有線放送権の及ぶ範囲は、放送を直接受信しての有線放送に限られており、他の有線放送事業者が行う放送の再送信を受信して再送信する有線放送には権利は及ばない。」としています。これは、単に「受信」と規定されている場合には有線テレビ放送施設を介して受信する場合を含まないと解釈していることを示しています。

正直な話、私としては一目見ればNHKが怪しいことを言っているのはわかるだろうとは思うのですが、やはり「天下のNHK様が誤ったことを言うわけがない」と考える方も多いと思いますので、それなりに信頼されているであろう東大教授が執筆された放送法制の課題を引っ張り出してきてNHKの誤っているところを指摘してみました。
まあ、普通に文言通り解釈すれば、「受信」との記載では「直接受信する場合のみを指す」、「有線テレビ放送施設を介して受信する場合は含まない」ことは明らかであると思います。

注記

2009年5月4日注記

筑波大学大学院 人文社会科学研究科 憲法学専攻の土屋英雄教授が執筆した「NHK受信料は拒否できるのか」では、NHKがケーブルテレビに入っていても受信料を支払うの?として公開している上記の主張について、「この解釈はさほど説得力がない。」として否定しています。
当サイト内の「NHK受信料は拒否できるのか」紹介記事に詳細を書いていますので、必要であればそちらを参照願います。