本記事では、「NHK受信料は拒否できるのか 受信料制度の憲法問題」と言う書籍を紹介します。
まず本記事の所属するbookカテゴリは、本を読んで簡単なメモを書いていくだけのカテゴリです。本記事はそのbookカテゴリの16冊目となります。図書館で別の本を探していたときにたまたま見かけて借りてきた本です。
著者の土屋英雄は、筑波大学大学院 人文社会科学研究科 憲法学専攻の教授です。
題名自体に「憲法問題」とあり、最近の論著に日の丸・君が代とか靖国などがあるとくれば、その筋の人ではないかと思ってしまう訳です。まあしかし、その筋だろうがどの筋だろうが、書籍はその内容次第ですから、それはそれとして内容を確認することになったわけです。
私がこの書籍に注目するのは、大学院の教授のような肩書きを有する学者さんが「有線テレビの視聴者がNHKと受信契約を締結しなければならないか」という問題を取り上げるのは、おそらくは初めてであるからです。
まず、NHKがケーブルテレビに入っていても受信料を支払うの?として公開している主張を取り上げた上で以下のように記載しています。(NHK受信料は拒否できるのか 57ページ冒頭部)
NHKは、放送法32条1項は「協会の放送を受信することのできる受信設備」と定めており、「直接受信することのできる」と言う文言を使用していないと説明しているが、この解釈はさほど説得力がない。
そして、準用規定等も検討した上、NHK受信料は拒否できるのか 58ページ冒頭部では最終結論として以下のように表記しています。
NHK放送の受信契約締結義務の規定は有線放送には適応されないと解するのが妥当である。
また、NHK受信料は拒否できるのか 58ページ中頃では放送法32条1項但し書きの規定に注目して以下のように表記しています。
この定義からすると、有線放送は、NHK放送の受信を「目的」とはしておらず、NHK放送受信契約の対象外とならざるを得ない。にもかかわらず、有線テレビの視聴者に対して、放送受信契約締結の義務があるとNHKが説明しているのは法解釈上で妥当ではない。
以上3点の指摘により、NHKや過去の国会答弁に示された有線放送を受信するための設備である有線テレビにおいても受信契約を締結しなければならないと言う意見を真っ向から否定しています。
この書籍発刊前には、大学教授等の肩書きを有する学者さんが有線テレビについてNHKと受信契約を締結する必要があるかについて書かれた書籍は存在しなかったのです。(少なくとも私が探した範囲にはありませんでした。なお、確認した書籍には、有斐閣の法律学全集15-Ⅰ交通法・通信法の他に、[book/放送・有線放送]に記載されている書籍も含まれます。)
ところが、今回取り上げた「NHK受信料は拒否できるのか」では、有線テレビの場合に受信契約を締結する義務はないとしています。
このことから、少なくともケーブルテレビの受信者は、NHKと受信契約を締結する必要はないと考えられ、結果として受信料を払う必要がないことがわかります。
上記以外の部分も一通り読んだのですが、その筋の味付けは正直私の苦手とするところでして、ぼちぼち読ませていただいたと言ったところです。上記以外の部分の記載は、他の学者さんは別の見解であることも多いので、単純に著者の主張を全面的に受け入れることは難しく、それぞれについて検討する必要があるでしょう。
しかし、有線テレビについての記載は、大学教授等の肩書きを有する学者に限れば著者しか主張しておらず、他の学者の既存の見解(放送と有線放送が異なるものであるなどの内容)とも矛盾するものではないですから、おおむね信用してよいと考えています。
つまり、現時点では、学問的には「有線テレビはNHKと受信契約を締結する必要がない」とされていて、反対意見は存在していないという理解でよいのではないかと考えます。
なお、本書で受信料制度の目的を考える際に、放送法1条1号にある「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。」に関する考察がおざなりだったのは残念でした。
注記
本記事の更新情報等です。
注記(2009年5月10日)
NHK受信料は拒否できるのか 58ページ中頃の記載の引用および前後の1行を追記。
タイトル: | NHK受信料は拒否できるのか 受信料制度の憲法問題 |
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著者: | 土屋 英雄 |
出版社: | 明石書店 |
発売日: | 2008年1月 |
定価: | 1800円(+税) |
ISBN-13: | 978-4750327006 |
目次: |
はしがき…………3 序説…………9 第1章 放送受信契約と受信料についての疑問…………23 第2章 受信料制度の目的および受信料の法的性質と根拠…………29 第1節 受信料制度の目的…………31 (1) NHKと受信料の目的…………31 (2) 「編集の自由」と「発言権なければ受信料なし」…………35 (3) 「経営の独立」と経営委員会…………43 第2節 受信料の法的性質…………45 第3節 受信料の法的根拠…………50 (1) 放送法32条の解釈…………50 (2) 日本放送協会放送受信規約の解釈…………60 第3章 受信料制度の憲法問題…………67 第1節 思想・良心の自由との抵触性…………69 (1) 思想・良心の自由と受信料制度…………69 (2) 判例…………74 第2節 表現の自由--知る権利--との抵触性…………82 (1) 知る権利と「放送」…………83 (2) 知る権利と「情報の遮断」…………84 第3節 幸福追求権--自己決定権--との抵触性…………87 (1) 幸福追求権と自己決定権…………88 (2) 自己決定権と情報の選択的摂取…………93 終章 受信料擁護の若干の論説の検討…………95 あとがき…………109 資料…………113 (1) 放送法…………115 (2) 日本放送協会放送受信規約…………185 |