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[book/政治とか]

なぜ「教育が主戦場」となったのか / 2008-10-27 (月)

当サイトのbookカテゴリ14冊目は、栗田哲也著の『なぜ「教育が主戦場」となったのか』です。(現時点でwikipediaに「栗田哲也」の項目がないので、記事を書いた時点でのgoogle1位サイトへリンクします。)
図書館で偶然目にした本ですが、教育の現状を「統治の失敗」と捉える視点が新鮮と思い借りてきました。

「教育が主戦場」と書かれているので、一目見たときは社会科教科書を巡る歴史認識とかの話かと思いましたが、その辺の話ではなく、学歴社会に関する議論や国家による自由・平等の価値観醸成の失敗について書かれています。
最近よく見られる、階層が親から子へ受け継がれることで固定化し、格差も親から子へ受け継がれているといった類の議論は誤っていると批判しています。

1章では、学習には大きく2つのハードルがあると指摘し、その結果として学習の階層が以下3つに分かれると記載しています。

①読み書きそろばんが不得手な層。
②読み書きそろばんはできるがそれ以上はできない層。
③読み書きそろばん以上のことができ、それ以上のおもしろさを追求する層。

筆者は、①の人々を②に引き上げるのが陰山英男氏によって広く知られている百マス計算の意義であって、②の段階にある人への対策ではないと言及し、これを区別しない議論に対して警鐘を鳴らしています。(筆者は、①層の親が①層の子供を再生産する可能性が高いことについては否定していません。)
また、②の人々を高学歴に促成栽培するための「アルゴリズム学習」についても記載しています。「アルゴリズム学習」は、簡単に言えば数学・理科などの教科の学習法として「受験はパターンを覚えればよい」とする学習法のことです。このような学習法の実際と弊害についても記載してます。

2章では、学歴社会の生成・崩壊について、教育制度上サラリーマンの位置づけを失敗したことに起因するとする議論をしています。

3章では、平等感の喪失についてグローバル経済を原因としてあげ、公教育の大胆な変更とそれに伴う公教育の復権を主張しています。色々な提案がされていましたが、中でも手段として私学助成金の全廃(あるいは漸次撤廃)、新規の学校法人認可の中止などをあげていたところに驚きました。

教育制度が統治そのものであり、最近の格差議論の元となっている平等感の喪失は国家による統治の失敗からもたらされているという視点は新鮮なものがありました。教育関係の方、政治家には是非読んでもらいたい本ですね。
あと、中学生・高校生が、自分の行っている学習がどのような位置づけにあるかを知るために一読するのもいいかもしれません。


タイトル: なぜ「教育が主戦場」となったのか 「統治の失敗」という見過ごされた論点
著者: 栗田 哲也
出版社: 勁草書房
発売日: 2008年4月
定価: 2000円(+税)
ISBN-13: 978-4326653355
目次: 第一章 学習状況は≪教育格差説≫を支持するか
第二章 学歴社会はなぜ生まれなぜ崩れかけているのか
第三章 グローバル経済は国家が保証する価値観をこわしつつある
背景ガイド
あとがき