こういう主張はいけません……NHK受信料問題で法解釈の基本中の基本を学ぶでは、「NHK受信料違憲・違法説」のサイトにおいて有斐閣の法律学全集の「交通・通信法」に対する検討がされていないことについて、「法律学の標準的な情報を得たければ、それは書籍に存在している可能性の方が非常に高い」ことを理由に批判的な見解が示されています。
まあ、当サイトは「NHK受信料違憲・違法説」には立っていないと自負しておりますが、本記事記載以前において書籍を参照していなかったことは確かなので、有斐閣の法律学全集の「交通・通信法」を図書館に行って見てきました。
見に行った図書館には、昭和59年2月25日に発行された有斐閣の法律学全集15-Ⅰ交通法・通信法〔新版〕がありました。出版されたのが昔なので、電電公社(NTTの前身)などについての説明があるのが時代を感じさせますが、放送法は大枠は変わっていないので、注意して読めば問題ないでしょう。さて、この本を調べた結果、以下2つのことがわかりました。
- 受信料の性質は放送受信の対価と公的費用負担の両者が混在する特殊の性格のものであるとの見解が多いように思われるとの内容が書かれています。(364頁)
それ以上に詳しく書いていないところから見ると、受信料の法的性質について定説とまで言える説はないのでしょう。(私の説は、(改訂版)NHKの受信料制度の意図に書いています。) - 放送法で定める「放送」に「有線放送」は含まれない。(359頁)
放送の定義を放送法から引用して説明している文中の、無線通信のところに注釈が入れてあり、注釈の中に「従って有線放送(有テ二条一項)はここでいう放送でない。」と書いてあります。
なお、受信者に対する影響などが両者で同様のことが多いことをあげ、放送と有線放送をあわせて講学(学問研究)上の「放送」として規定することも可能である旨も書いてあります。
上記から、有線放送のみでテレビを受信している人は、「有斐閣法律学全集の交通法・通信法によれば、有線放送は放送ではないとされている。当家にあるテレビは、有線放送の受信を目的として設置された有線放送のみを受信できる設備であり、法律上受信契約の締結義務はない。」と主張しても妥当であることがわかります。
確かに、書籍を調査することは重要ですね。
さらに書籍を調査した
[book/放送・有線放送]にて、9冊本を読みましたが、それでも有線放送で受信契約を締結する義務があるとの記述は見つけることができませんでした。
9冊の中には、国会審議でも参照されたことがある放送法制の課題とか、日本放送出版協会が発行している新・放送概論も含まれます。
実のところ、まともな学者で有線放送を受信した場合にも受信契約を締結する義務があるとの見解を示している方はいないんじゃないですかね。(もし見かけた方は至急ご連絡をお願いします。)
放送法制の課題では
東京大学法学部教授(初版発行当時)の塩野宏によって書かれた、有斐閣「放送法制の課題」の5ページでは、註釈部分で以下のように書いています。
(2) ただし、公職選挙法一五一条の五では、同法に定める場合を除くほか「選挙運動のために放送をし又は放送をさせることができない」と定めているが、そこにおける放送は、放送局の放送以外、いいかえれば、有線による場合も含む趣旨と解されるが、このように放送が、制定法上特段の形容詞なく用いられ、しかも、それが、電波法・放送法にいう放送以外のものも含むのは、作用法ではきわめてまれな例に属する。
もし、放送法中に放送法2条の定義に反するこのようなまれな例があれば、この部分に特記されるはずですので、著者は放送法32条の受信契約締結義務があるとされる放送に、有線による場合を含んでいないと解しているのでしょう。
先の引用部の後には、「組織法のレベルでは、郵政省電波監理局の所掌事務として挙げられる放送には、有線放送が含まれており(郵政省設置法一〇条の二)」と書かれていますが、この部分の条文は「電波及び放送の規律(有線放送の業務の運用の規正を含む。以下同じ。)」と、有線放送を含むように記載されています。そのため、有線放送が含まれるのは当たり前のことです。(ここで記載の郵政省設置法は「放送法制の課題」初版発行時の平成元年のもので、廃止直前のものとは異なる。)
なお、公職選挙法一五一条の五は「何人も、この法律に規定する場合を除く外、放送設備(広告放送設備、共同聴取用放送設備その他の有線電気通信設備を含む。)を使用して、選挙運動のために放送をし又は放送をさせることができない。」と、前半部分で有線の設備を含めているので、規制の趣旨を考えると後半部分の放送も有線による場合を含むと考えているのでしょう。
「放送法制の課題」では、有線テレビ放送に関して一章割り当てていますが、そこにも有線放送のみ受信時に受信契約を締結する義務がある旨は記載されていません。まあ、これは著者の興味がそこになかったとも解釈できるでしょうが。
このことから、有線放送のみでテレビを受信している人は、
『東京大学法学部教授によって書かれ、国会審議でも言及された有斐閣の「放送法制の課題」によれば、「放送が、制定法上特段の形容詞なく用いられ、しかも、それが、電波法・放送法にいう放送以外のものも含むのは、作用法ではきわめてまれな例に属する」とされており、「有線による場合も含む趣旨と解される」まれな例は公職選挙法にある。よって、放送法32条は有線による場合は含まないと解するのが正しい。
当家にあるテレビは、「NHK」ではなく「有線放送局」 の 「放送」ではなく「有線放送」 の受信を目的として設置された 有線放送のみを受信できる設備であるので、法律上受信契約の締結義務はない。』
と主張しても妥当であることがわかります。
新・放送概論では
「新・放送概論」の35ページでは、NHKの放送ではなく、放送衛星システムが受託放送しているNHKの番組(いわゆるNHKの衛星放送のこと)を受信可能な設備を設置したときであっても、受信契約を締結する義務がある旨を特記しています。(放送法二条の二第二項第二号による)
ところが、NHKの放送ではなく、CATV局が有線放送として再送信しているNHKの番組を受信可能な設備を設置したときに受信契約を締結する義務があるとの記述はどこにもありません。
著者の片岡俊夫は、日本放送協会において、会長室経営主幹、総務室長、総合企画室局長、理事を歴任した人物であり、東京大学講師、参議院客員調査員もした人物です。
出版社も日本放送協会関連の日本放送出版協会です。
このことから、有線放送のみでテレビを受信している人は、
『日本放送協会において、会長室経営主幹、総務室長、総合企画室局長、理事を歴任した片岡俊夫が、日本放送出版協会から出版した「新・放送概論」には、NHKの放送ではなく、CATV局が有線放送として再送信しているNHKの番組を受信可能な設備を設置したときに受信契約を締結する義務があるとの記述はどこにもありません。衛星放送については義務がある旨を特記していることから、記述がないということは、義務がないからですね。』
と主張すると、NHKの集金担当者は大いに困るでしょう。後は、上記の本2冊をあげて義務がない旨を主張すればいいでしょう。
放送法(一部)
第二条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
一 「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。
(以下略)
第三十二条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
2 協会は、あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。
3 協会は、第一項の契約の条項については、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
参考法令等
変更点
2006年2月15日追記
参考法令等追加。有斐閣の法律学全集15-Ⅰ交通法・通信法〔新版〕についての説明等を追加。
2008年2月18日 23時頃
「さらに書籍を調査した」追記。
2008年2月24日 23時頃
「さらに書籍を調査した」一部修正。
2009年5月2日 22時頃
「新・放送概論では」にて「ちょっとページは失念しましたが」としていましたが、確認したので記載。
あと、「書籍を参照していないことは確かなので」を「本記事記載以前において書籍を参照していなかったことは確かなので」と過去形に修正。これは、現在は書籍を参照している記事もあるため。