宗教法人「幸福の科学」総裁の大川隆法氏創立の幸福実現党が、読売新聞に日本国の新憲法草案を全面広告で掲載しています。大川隆法氏の試案とのことです。
まず、その試案を以下に引用します。
2009年6月21日読売新聞の幸福実現党広告ページより新・日本国憲法
幸福実現党創立者
大川隆法 試案
- 前文
- われら日本国国民は、神仏の心を心とし、日本と地球すべての平和と発展・繁栄を目指し、神の子、仏の子としての本質を人間の尊厳の根拠と定め、ここに新・日本国憲法を制定する。
- 第一条
- 国民は、和を以って尊しとなし、争うことなきを旨とせよ。また、世界平和実現のため、積極的にその建設に努力せよ。
- 第二条
- 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
- 第三条
- 行政は、国民投票による大統領制により執行される。大統領の選出及び任期は、法律によってこれを定める。
- 第四条
- 大統領は国家の元首であり、国家防衛の最高責任者でもある。大統領は大臣を任免できる。
- 第五条
- 国民の生命・安全・財産を護るため、陸軍・海軍・空軍よりなる防衛軍を組織する。また、国内の治安は警察がこれにあたる。
- 第六条
- 大統領令以外の法律は、国民によって選ばれた国会議員によって構成される国会が制定する。国会の定員及び任期、構成は法律に委ねられる。
- 第七条
- 大統領令と国会による法律が矛盾した場合は、最高裁長官がこれを仲介する。二週間以内に結論が出ない場合は、大統領令が優先する。
- 第八条
- 裁判所は三審制により成立するが、最高裁長官は、法律の専門知識を有する者の中から、徳望のある者を国民が選出する。
- 第九条
- 公務員は能力に応じて登用し、実績に応じてその報酬を定める。公務員は、国家を支える使命を有し、国民への奉仕をその旨とする。
- 第十条
- 国民には機会の平等と、法律に反しない範囲でのあらゆる自由を保障とする。
- 第十一条
- 国家は常に、小さな政府、安い税金を目指し、国民の政治参加の自由を保障しなくてはならない。
- 第十二条
- マスコミはその権力を濫用してはならず、常に良心と国民に対して、責任を負う。
- 第十三条
- 地方自治は尊重するが、国家への責務を忘れてはならない。
- 第十四条
- 天皇制その他の文化的伝統は尊重する。しかし、その権能、及び内容は、行政、立法、司法の三権の独立をそこなわない範囲で、法律でこれを定める。
- 第十五条
- 本憲法により、旧憲法を廃止する。本憲法は大統領の同意のもと、国会の総議員の過半数以上の提案を経て、国民投票で改正される。
- 第十六条
- 本憲法に規定なきことは、大統領令もしくは、国会による法律に定められる。
前文と16条で仕上がったコンパクトな憲法草案です。
せっかくですから以下で気になる条文を解説してみます。
<前文>
「神仏の心」とかの表記が、起草者が「幸福の科学」総裁であるその立場を思い出させますが、特に具体的な権利義務を定めた規定ではないと思います。常識的に考えれば、この記載を理由としていずれかの神仏を信仰しなければならないと強制されることはないはずです。(起草者の真意は知りませんがね。)
第1条
テラ聖徳太子。
第2条
信教の自由を人間すべてに対して法律による留保なしに認めています。常識的に考えれば、日本国民・外国人にかかわらず、幸福の科学(や他の宗教)に改宗するよう迫られることはないはずです。
第3条
何でこんなねじった条文なのか。
私が同じ内容を書くなら「国民によって選ばれた大統領が行政を執行する」「大統領選挙の詳細・大統領の任期は法律で定める」とするでしょう。
それとも、国民投票とやらが信任投票であるなど、あのように明記しなければならない理由があるのでしょうかね。
第5条
現行憲法9条改正派の幸福実現党としては欠かせない条文ですね。防衛軍を組織することが明記されています。
面白いのは国内の治安維持は警察と明記されていることです。わざわざ明記した趣旨を推察するならば、国内の治安維持には防衛軍が使えないと考えるべきなのでしょうか。
第6条
国会の構成を法律に丸投げしたと言うことは、憲法上は二院制でも一院制でもいいんですな。
それより気になったのは「大統領令以外の法律」との記載があること。
この憲法では、大統領令も法律なんですね。
第7条
大統領令と国会による法律に矛盾があれば、最悪2週間待てば大統領令が優先されるようです。
この憲法案の大統領は、アメリカ合衆国大統領のように議会を通過した法案への拒否権をもっていませんが、そのような権利は不要であることがわかります。なぜなら、大統領令で国会による法律を上書きすれば目的は達せられるからです。
第10条
機会の平等は日本国民に対して法律による留保なしに認めています。
なお、「法律に反しない範囲でのあらゆる自由」を国民に保証されているのですが、第6条によれば大統領令も法律です。
明治憲法で天皇が発布するとされた勅令では権利を制限できず、権利の制限が(議会で承認された)法律でのみ可能であった事と比べてもどうしたものかと思います。(明治憲法第8条では、議会閉会中の緊急時には法律に変わるべき勅令を発布できますが、これは次回開会の議会で承諾無ければ未来に向かって無効とされます。)
第14条
天皇制を含む文化的伝統を尊重することは記載したものの、詳細は法律に丸投げしています。
第15条
過半数とは全体の半数を超えていることです。
よって、「国会の総議員の過半数以上の提案」は表現としておかしくて、「国会の総議員の過半数の提案」または「国会の総議員の半数以上の提案」と書く方がよいでしょう。
まとめ
まあこの憲法案では国会は飾りですね。元首たる日本国大統領が無茶強い。例えば、この憲法案では大統領就任後に大統領の任期を終身にする大統領令(この憲法上は法律)を出せば任期が終身になりますよね。また、国会が法律で大統領の任期を決めようとしても、7条により大統領令が優先されます。
もし幸福実現党が国会で第一党になれたとすれば、国会議員を通してもっと穏便な形で国家の権力を実質上掌握できるので大統領がやたらと強いこんな憲法案は不要ですし、第一党になれなければこの憲法案を憲法にできるわけがないのですからやはりこんな憲法案は不要です。
幸福実現党はいったい何を考えてこんな権力バランスの悪い憲法草案を新聞に掲載したのでしょうか。よくわかりませんね。
もしかしたら、これらの政治的な動きは、幸福の科学内部の事情によって必要とされる行動であって、基本的に外界の我々は関係がないのかも知れませんね。